第十章:色の配分 一ノ巻:パレットと配色の関わり |
第十章ではパレットの配分に関して進めてみよう。ことドット絵に関しては使える色数が 限られてくるケースが非常に多いので、パレット配分はキャラ作りにおいても重要な工程である。 パレットの基礎知識については第五章で触れているので、それをふまえた上での実務的な 話に入って行きたい。 ■無い袖は振れない パレット作成では「16色単位」と言う基本的な作法がついて回るので、ヌキ色を含めた16色で作成する ことが多くなる。17色のキャラなどはよほどの理由が無い限りまず使えないと思った方が良いだろう。 17色使うのなら余った分を他のキャラ用に割り当てて共用するとか、どこかで1色削って16色で済ますのが セオリーだ。別キャラとの共用は色替えに多少制限が発生するので(これに関しては後述したい)、 最初から16色単位で作成すべきだろう。 無い袖は振れないのである。 |
第十章:色の配分 二ノ巻:配分の思考 |
ここではパレットのやりくりをする上のでポイントを説明して行くことにしこう。パレット配分を行う際に 思考のポイントとなるのは「キャラのイメージ」「各色の対比」「見る者の視線」などだ。それぞれ順を 追って押さえてみよう。 ■ポイント1:キャラのイメージ 『|・|』とか棒と丸でテニスだエアホッケーだなどと表現していたゲーム黎明期の頃はともかくとして、 「何が書いてあるのか分かる」書き方をするのが当然の現代では、表現すべきキャラをどう見せたいのか、 そのキャライメージを画面で伝えるにはどんな配色にすべきか、と言うのがまず重要になってくる。 仮にドラクエのような見下ろし型視点のRPGを作りたいと思ったとする。そうするとプレイヤーキャラが 画面上に見えているのだが、そいつは大人なのか子供なのか、性別は、体格は、装備は…などと外見で 表現する要素は凝れば凝るほど多くなってくる。「伝説の武具を身に纏った選ばれた○○の勇者様」なら 伝説の武具とやらをちゃんと分かるように書いてやらないといけない訳だ。まあ、役柄にふさわしい外見を させて役に説得力を持たせることはキャラ作りの基本中の基本なので「書いたは良いがどうもそれっぽく 見えない」とお悩みの場合はこの手のノウハウに優れた漫画の技法書などにも目を通すと良いと思う。 ドットの場合は絵のように微妙な線で書き分けが出来る訳ではないので、必然的に全体のシルエットと 配色で「それっぽく」見せるスタイルになる。例えば漫画などでも良く言われる「おじいさんは腰が曲がって いるとそれっぽいよ」みたいなヤツだ。食事の支度をする母親の役に単純に説得力を持たせたいのなら、 通常の女性キャラにエプロンを付ければそれだけでも大分違う。このように万人が共有している記号的 要素は制服が与えるイメージに通じる物があるので、それらを上手く取り入れてドットキャラの弱点を 克服して行くのが良いと思う。 ■ポイント2:各色の対比 書くべきキャラの大まかなイメージが決まったら、次はそれを表現するために配色を考えるステップへ進む。 配色を考える上で「色の対比」はとても重要なポイントだ。明度対比に付いては二章で触れているが、 対比としては他にも「色相対比」「補色対比」「面積対比」…などなど、色が存在する所には必ず対比が発生 している。我々はその対比で物の形や色を判断し認識するので、配色と色の対比は切っても切れない関係に あると言って良いだろう。何やら名前は小難しい感じだが、概念自体は単純で文字通り「見れば分かる」類の 物なので構える必要はない。そもそも自分も専門的に色彩の勉強をした訳ではないので単純な説明しか やりようがないのだが。 (A)色相対比 赤や青など色味のある色が隣り合うと生まれる対比で、ごく日常的に目にする。色の違いと言っても良い。 色の組合せによって「色が濁る」等、見た目が変わる場合もあるが(彩度対比)ここでは純粋な対比のみを扱う。 (B)補色対比 赤と緑など補色の関係で起きる対比。補色とは最も色差を大きく感じる組合せのことで、美術で良く目にする 色相環上で対面位置の色がこれに当たる。色相対比の中では最も強い組合せになるので、大変目が痛い。 緑のヘタの付いた完熟苺などは典型的な補色対比の例だろう。 (C)面積対比 下図のように同じ配色でも面積の違いによって受ける印象が変わる。服装のセオリーに「補色はワンポイントで」 と言うのがあるが、面積比を操作して「色の役どころ」を決めているのである。 とまあ、上記のように組み合わせる色の違いや使い方によって色々な対比が生まれ、与える印象が変わってくる。 この他にも色のトーンを合わせて統一感を出したり、強い色の彩度を下げたり、面積を変えたり色の間に無彩色を 挟んだりと、とにかく配色は奥が深い。奥が深すぎて自分ごときではとても説明できないので、各自が色に興味を 持ち気に入った配色をストックしたり良書等を研究して欲しい。シルエットに左右されて配色が良く分からない場合は 対象を単純化して色だけを取り出してみるのも良い方法だろう。世の中は配色で溢れている。 試しに人体を4分割して配色した物を並べてみた。作ってみて大変驚いたのだが、ガンダムのモビルスーツは 配色パターンの抽出だけでもそれが何なのかが実に良くわかる。実際のモビルスーツがどうなっているかは ネットで「ザク」「ドム」「ゴッグ」「ズゴック」「アッガイ」等をイメージ検索して頂きたい。 ■ポイント3:見る者の視線 配色のイメージを掴んだらそれをパレット上に配分する作業に入ってみよう。ドットはハードのスペックや仕様に よって「使える色数に制限」が生まれるので、どんなに素晴らしい配色が出来ても実際のドットキャラに起こした時に 色が足りなかったり、グラデ(階調)が足りずに立体感が損なわれてたりしたら折角の苦労が台無しで大変哀しい。 パレット制限がある場合は配色と同じ位、配分を考えることは重要なので配分も意識した色作りを進めて行こう。 少ない色数での配色を考える上で昔から言われている「服は2色(系統)まで」と言うセオリーが足ががりになる。 服装に過度に色を使うことを戒めた先人の知恵だが、この考え方が実にドットキャラのデザインにマッチする。 例えば「炎の騎士」だったらベースを赤に設定して、ワンポイントに緑を入れたり鎧の境目に黒に近い色を入れて インナーとして甲冑のつながりを締めるとか、セーラームーンのように「パーソナルカラー+白+ワンポイント」で統一感を 持たせつつ色から連想される各キャラの属性を説明したり、引きの絵でも区別がつくように…などなど「主+従」で 構成される2系統の配色には色々と学ぶことが多い。
グラデに割く色数は使われる面積や視認性に関係して くるので、例えば帽子を常にかぶっていてほとんど 髪を描く必要がないのなら髪を1〜2色にして装飾品等に回してやりくりしたり、見下ろし視点なら頭部に、 格闘物でプロレス系のゴツイキャラなら筋肉の表現に回したりと、見る者の視線がどこに向かうのかを考えて グラデの量を増減させてやれば無駄のない効率的な配分を作りやすいと思う。 |
第十章:色の配分 三ノ巻:色替えへの対処 |
16色などでキャラを作った場合、色替えにある種の制限が生まれることがある。下図は同キャラ対戦を 想定して肌と制服の色を弄ってみたものだが、制服の赤系で口を書いたために色替えしたら口の中まで 変わってしまったミスの一例だ。ストIIターボまでのザンギエフは口や身体の傷をパンツの赤系を使って 書いていたのでパンツの色を変えたら口や傷も変わってしまっていた。ストII開発当時は同キャラ対戦が 仕様上存在しなかったので色替えに対応する必要がなかったから仕方がないのだが、流石に色替えが 当り前の現在ではそのままにするのは少々厳しい。 と、このように色替えが発生するキャラの場合。標準キャラから変えられる色相に制限が生まれる。 とは言え、目につくパーツの色相を変えないとキャラの区別が画面上でつかないので、専用色を用意 出来る空きを作るか、利用面積が小さい部分をなんとかしてやりくりするしか手はない。
専用色の捻出は望むべくもないので、制服に比べ面積比の小さい口の色を弄る方向で進めてみよう。 下図は「黒と肌の一番暗い色」で書いてみた例。大分自然になった。この絵では口と首の色が一緒に なってしまったので、首との境界として黒で分けることもしてある。色相が違ってても明度差があまりない 色同士(肌のハイライトと白など)が隣り合う場合などでも色差が感じられるように書くべきだろう。
実際にスーパーストII以降のザンギはこの手のやりくりで口と傷の色が変にならないように書き直されて いる。機会があったらハイパーストIIなどでターボザンギとXザンギを確認して欲しい。ちなみに元から 頭+色替えで別キャラにしていたリュウとケンでは口の色は黒で表現されている。反転すると左右の 塗り分けも矛盾なく変わるストIIIのギルは、恐らく身体の半分を別パレットで持って反転時にパレットの 関係を入れ替えているのだろう。反転分のキャラパターンを持たずに済む良いとんちだ。 まあ、配色の基礎的思考と色替えに対するとんちの一例はこんな感じだろうか。手首に目立つ色を置いたり 配色パターンを切り替えたりするのも、手の動きを良く見せるためのテクニックのひとつだし、興味を持って 見渡せば色々な発見があると思う。格闘物を作りたい人は特に配色と色替えを研究して欲しい。 次回の更新時期は例によって未定(申し訳ない…)。次は動きの第二弾か複数パレットの背景あたりか… |