第八章:線と角度  一ノ巻:ドットの鬼門

 第七章「面とエッジ」を追加してから早一年…時の経つのは早い……。気にはなりながらも
色々あってずっとほったらかしにしていたドット道の第八章は、ドット絵で避けては通れない
角度表現を掘り下げてみたい。

 基本的に1ドット以下の情報を持てないドット絵は「細い線」が苦手である。高解像度・多色
環境ならばアンチエイリアス処理である程度ごまかせるが、ハード的な理由により、低解像度の
16色で背景などを描かねばならない事も時にはあるだろう。もともと細い線が苦手のドット絵で
微妙な角度の線ばかり出てくるパースの付いた背景などは最悪で、この弱点を何らかのとんちで
克服しない限り、低解像度でパース背景を描くのは難しい。


■1ドットの細い線は鬼門
直線機能のまま ドット数で調整
直線機能のまま ドット数で調整


 第一章でも使った図だが、こうして見ても1ドットラインは鬼門である事が明白なのだが、これを
何とかするのが腕の見せ所だ。まあ、どうにもならない場合もあるが、悪いままなりにも印象を
引き上げる方法はあるので、ニの巻からは実際にパース絵をドットに起こしてみよう。
第八章:線と角度  二ノ巻:ドットの融通
 ここからは下記のサンプルをドットに起こしてみたい。このサンプルは友人から貰った漫画用
背景素材集を320*240に縮小したものである。そのまま使える背景集なので、既に線が整理
されていてパースの付き方が分かりやすい。とりあえずこれを16色(空はヌキ色)でドット絵に
してみよう


■縮小したサンプル
背景素材

 レイヤーがある場合はサンプルの上に新規レイヤーを作り、そこにドット線を引いていくのが
簡単だ。レイヤー機能のないツールの場合はサンプルに直接線を引く事になるので作業用に
ファイルを別にしておくと良いだろう。右下の植込みは切り出して塗り替え機能を使うと早い。


■とりあえず直線機能で線を取る
直線機能で線を取る

 とりあえず基本となる線は取れたが、このままではとても使えないので、ここから各部を
ドット的な融通を利かせながら見映え良く修正して行く。「モノクロでも線が綺麗」と言うのが
線修正の理想だ。上の場合、校舎の基本的な線は綺麗に出てるので、ドット的に見映えの
悪い「上方へのパース線」とどうにもガタついている「窓枠の線」を重点的に直すことにしよう。


■融通を利かせつつ線修正
融通を利かせつつ線修正

 ドット的に見映えが悪かった上方へのパースを消し、三点透視を二点透視に変更。VGA画像
(640*480)や湯水のように色が使えるなら三点透視のままでも問題ないが、色数と解像度が
限られている場合はこのように融通を利かせてドット上の見映えを優先させるべきだろう。
どうしても元絵と同じにしなければならない場合は根性でなんとかするしか無いが、普通は
見た目が綺麗な方が優先される。1ドット以下の情報は汲み取れないのだから、融通を利かせる
事は大切である。

第八章:線と角度  三ノ巻:情報量の取捨選択
■窓枠部分の拡大
直線機能のまま 調整
直線機能のまま ドット的に調整


 校舎右端の窓枠部分の拡大図である。二点透視に変更したために縦線が垂直線のみになり
スッキリしたので、それに合わせて窓枠のガタツキを修正する。取りきれなかった線も元絵を
見ながら付け足したり削ったりして「何が一番目に付くのか」と言うのを良く考えながら修正する
のがコツだ。校舎では横一列に並んだ窓枠やコンクリート製の直線的な外観が良く目に付くので
それを出来るだけ汲み取るようにドットを配置して行くと良い。

 具体的に言うと上図では出来るだけ窓枠の「田」の部分の形を崩さないよう、窓枠の単位で
ドットの上げ下げをしている。左図のように窓枠の直線部分でドットがずれていると枠が崩れた
ように見えるので、多少パースが変でも融通を利かせて窓枠の印象を重視している訳だ。

 この考え方はとても大切で、ドットで「描いた物をらしく見せる」ための極意がこの部分にあると
思われる。人間は物をざっと見た時には極微妙な陰影の違いやゆがみ、傾きなどを脳が適当に
補正して認識しているらしく、その補正する要素を情報に盛り込んでやると少ない情報でもより良く
見えるようだ。いわゆる「情報量の取捨選択」である。今回の場合「窓枠は水平垂直の十字線で
区切られている」と言う要素を重視して、その他の汲み取れない窓枠の奥行きや微妙なパースの
ゆがみを切り捨てている。汲み取るべきは全体のシルエットと印象的な構成で、影が微妙に違う
だの、この部分だけちょっと色が違うだのと言うは最終的に入れられたら入れる類のものであり、
そう言う瑣末的な部分に心を奪われてはいけないと思う。縮尺模型での有名な例え話のひとつに

  『ある縮尺以上の模型では正確に全てのパーツを縮小して再現する事は不可能なので
  「何となくそう思う」と言う約束事の集合体として捕らえるべきである』

 と言うのがあるがまさにその通りで、縮尺や圧縮された情報には盛り込める限界が自ずからあり、
重要な要素以外は切り捨てるべきである。特にドット絵は盛り込める情報に限りがあるのだから
何が重要で何が重要でないかをしっかりと見極める必要があると思う。


■彩色〜仕上げ
彩色〜仕上げ

 と言う訳で、線画からさらに修正をしながら各部をベタ塗りして完成。空は別画面で描くとして
ヌキ色で処理し、校舎に8色・地面に4色・植込みに3色で計16色である。本来なら手前の校門の
壁と植込みは独立したオブジェクトにして、専用に16色取るともっと微妙な煉瓦風の壁に出来ると
思うが、全部をひとまとめにするのならこんなところだろうか。微妙なドット置きで窓枠のガタツキを
少しでも軽減させるかどうかは好みの問題になってしまうが、上図ではそれなりに軽減させてみた。
使用パレットは下図の通り。


■パレットの詳細
パレットの詳細

 空(ヌキ1色)・校舎(8色)・地面(4色)・植込み(3色)の計16色。個別に色を調整出来るように
こうしてパレット段階で別にしておくのが常道。混ぜて使う事は取り込みの修正以外ではまず
ありえないのでパレットを分ける癖は必ず付けておくべし。

 いやはや、やっと八章まで来たか…今回のようなパース絵の練習は非常に有効なので、決めた
色数と解像度で色々と描いてみると良いだろう(この手の建築物を描く練習を筆者は某社の研修
課題として何点かやっていた、基礎技術向上に一役買う事間違いなしなのでお奨めであります)。
いきなり64色とか256色でやると余計な色を作りすぎて、結果的に完成しない事が多いので、最初は
16色で建物のみを描く事をお奨めしたい(空はヌキ色で代用、単色でも十分空に見える)。

 肝心の練習素材だが、今回使った漫画用背景素材集もなかなか良い感じなので、持ってる方は
一度やってみると良いと思う。塗りが難しければ線を取るだけでも良い。塗りよりも線の段階で十分に
見られる物にする事の方が大事なので、まずはしっかりと線修正が出来るようにすべきだろう。
線修正がある程度出来るようになり、面塗りに進んだ場合は8〜10色程度のグレーで石膏デッサン
するように面と影をとらえると良い練習になる。筆者の研修では旅行会社のパンフや雑誌の写真を
見ながらドットに起こして行く練習が主だったが、今なら取り込んだ物をグレースケールに変換して、
光と影の関係を参考にするのも良いと思う。まあ、見て・描いて・悩んで・また描くと言う事で…。


 さて、今回は1年振りの更新になってしまったので「次こそは」などと軽くは言えないのだが、なるべく
暇を見つけて一気に進めてしまいたいところだ。次はマップチップの話辺りかも知れず。

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