第五章:パレット  一ノ巻:パレットの概念

 第四章まではドット絵作成に関する基礎知識を「基礎の基礎編」として解説してきたが、
第五章からは一歩前へ進んで、より現実的な話に入りたいと思う。と言う訳で、この章は
多色作成に無くてはならない「パレット」についてのお話である。

 「パレット」と言うと、多くの人は美術の授業で使ったプラスチック製の手で持つアレを
思い浮かべるかもしれない。あの複数の色を小出しにして、そこから色を拾うアレである。
まあ、”色棚”とでも表現すれば良いのだろうか。この色の棚から色を拾ってドットを打って
行く訳だが、開発時の効率化のために良く使われる作法と言う物が存在したりするので
その辺を順次解説して行きたい。(最近のハードではパレットの概念が無い物もあるが、
そう言うのは趣旨に外れるので省く)


 ゲーム開発では16色単位でパレットを構成することが作法になっているので(これは
コンピュータが2進数を基本にしているためで、この方が万事都合が良いのだ)256色分の
パレットでは16色が16段分と言うことになる。32色なら2段分で64色なら4段分という訳だ。

 例えば「1キャラ16色使えるけど、敵キャラ用のパレットは256色1本」という仕様の場合、
ある一つのキャラには16色まで使えるが、敵として使われる全てのキャラの色は256色の
敵キャラ用パレット内にまとめろと言うことになる。使えるパレット本数が決まってるハードも
あるのでこういうやりくりも必要になってくる訳だ。この辺はハード仕様や容量と相談である。


 ※文中に出てくる「1キャラ」と言うのは何がしかのキャラクターと言う意味ではなく、物体と
言う意味である。これはBG部分とその上に重ね合わせる物体を区別するためで、チームに
よっては「オブジェクト(オブジェ・OBJ)」と呼ぶ場合もある。ゲーム誌で良く出る「スプライト」と
いうのはハードの持ってる機能の呼び名で現場では「このスプライトを〜」とはまず使わない。
そう呼ぶ現場もあるかも知れないが、筆者の居た会社では上に来る物は皆「キャラ」だった。
第五章:パレット  二ノ巻:ヌキ色
 先ずは、ゲーム開発で必ず出てくる「ヌキ色」についてだ。普通の絵と違いゲーム開発の
場合は多くの重ね合わせ処理が行われている。アニメで言うところの背景とセル画の関係に
良く例えられるのでご存知の方も多いだろう。セル画は透明なセルロイド板に色を塗って
重ね合わせを表現しているのだが、その透明な部分をプログラム上で判断するために
透明にしたい部分にある特定の色を使い「この色で塗られている部分は透明に変換」とする
方法がゲーム開発では一般的である。これが「ヌキ色」と呼ばれる物で、大抵は(0.0.0)の
黒が割り当てられる。これは開発ツールやソフトが実際に走るゲーム機によっても異なり、
あるデジタル彩色ツールでは(255.255.255)の白が強制的にヌキ色に割り当てられていたり
某ハードではパレットの一番先頭が必ずヌキ色になったりもする。その辺はもう「仕様」なので
使い手が臨機応変に対処していくしかない。


 ■ヌキ色の概念(ヌキ色はキャラの周囲の水色と設定)
キャラの周囲を抜いて  +  背景に重ねる    こんな感じになる


 まあ、作業中も無理に仕様に合わせることは無いし、それで効率が悪くなって残業が多く
なっては本末転倒なので、作業中は自分のわかりやすい色(淡い緑や色味の弱い青など、
描く対象と色差があって目に負担をかけない色が多く使われる)で作業をして納品時に
パレットを調整して最終的に仕様に合わせるのが一般的である。このパレットの色替えで
本来ヌキ色では不味い部分に使われているドットを発見しておかないと製品版を見て愕然と
する場合があるので納品ファイルを作る際には何度も確認しておきたいポイントである。

 ■ヌキ色が変な所に混ざったままにしてると、合成時に恥ずかしいことになる一例。
目の部分にヌキ色が混ざっている    重ねたときに恥ずかしい

 ※余談だが、有名なミスではスト2のリュウ・ケン垂直ジャンプ弱中キックの軸足に1ドットの
ヌケがあったり春麗の腹にヌケがあったりする。恐らく元にした線画を黒にして作業した
ために、ヌキの黒と見分けが付かずに見逃してしまったのだろう。影部分は黒っぽい色が
使われるので混ざったままになってるのは良くあることだ。まあ、軸足中央のヌケは謎だが。

 この時、ツールのパレットにバンク機能(256色のパレットをさらに複数分持てる機能)が
あると、他のバンクでヌキ色だけ別色にしたパレットを同位置に置くことにより、妙なヌケの
発見や本来使ってはいけない別キャラ用のパレット混在を確実に発見することが可能になる。
パレットバンクがあると非常に便利なので、ドットツールを作る際には是非付加して欲しい。

 ■パレットバンクが使えるとミス発見が容易になる。
パレットバンクがあれば    発見が容易
第五章:パレット  三ノ巻:色の並び

 パレット内での色の並べ方についても簡単に解説しておこう。

 ドット絵の場合、パレット内では同系色のグラデで色をまとめるのが一般的だ。これは
色のグラデを丸ごと他のグラデに変更する「色替え」で必要なためだ。最近では格ゲーの
キャラが複数の色を選べるが、あれがまさに色替えである。赤い服のグラデを青いグラデに
変えて青い服に変えたりしてる訳だ。その際、パレット内でグラデが同じ位置に来ていないと
色替えが上手く出来ないので、あらかじめ配色の際に「服4色・肌4色…」という風に決めて
パレット内でのグラデを確保するのである。

 ■色替えによるキャラの配色変更の一例。
色替えの一例    色替えの一例

 パレットでの色の並び方だが、明確な作法と言う物は特に無い。チームによってバラバラ
だったりするのだが、作業しやすい並びとしては先頭にヌキ色を配し、各同系色は「暗-明」か
「明-暗」の順に並べるのが一般的である。筆者の会社では「暗-明」で統一されていたが、
他社では「明-暗」も使われていたので、自分達が使いやすいと思う並びで良いだろう。
「パレット先頭はヌキ色」というのはどこも同じなのでこれは守っておきたいポイントである。
また、未使用色はパレット終端に絶対に使わない色(255.0.255のド紫等)にしておくと他の
人が見ても分かりやすいので複数で作業する場合は皆で取り決めておくと良いだろう。

 何にせよ、人によって並びがバラバラと言うのは頂けないので特に注意されたい。



 パレットに関してはこの辺を押さえておけば大体問題無いと思う。ツールによって使える
機能に違いがあるのでバンク機能に関しては「そう言うのもあるんだ」程度に思って頂きたい。
やはりパレットで注意すべきことは「ヌキ色の混在を見逃さない」ことと「不必要な色をやたらに
作らない」ことだろうか。1キャラ16色ベースの場合、2〜3ドットしか使ってない色があったり
すると非常に勿体無いので「この色は本当に必要なのか」と言うことを常に考えて色作りを
して貰いたい。無駄なドットを置く余地も無いが、無意味な色に使う余地も無いのである。

 まあ、最近は色も無尽蔵に使えるようになってるのでこんな心配をする必要も無く、適当に
減色した方が綺麗だったりするのだが、基礎あっての応用なので覚えておいて欲しい。

 以上で第五章は終了。さて、次は何にしたものか…。

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