第四章:動きの礎  一ノ巻:中割

 第四章ではドット基礎知識編の最後として動きに関する基礎知識を簡単に解説したい。

 多くの同人ソフトやツクール作品ではキャラのデザインや絵の細かさに開発の意識が集中
しがちで肝心の動きをないがしろにしている作品を多く見かけるのが残念である。イベントで
使われる1枚絵ならともかく、チップキャラが何時までも3パターン歩き(所謂ドラクエ歩き)と
言うのはどうにも頂けない。ツクール等ではパターンの制約があるのかも知れないが、
動きはドット絵の華なので、是非とも無駄に凝った動きを楽しんで描いて欲しいと思う。
下のサンプルは6パターン(中2枚)のアニメーションである。

動きの作例 その1(2倍表示)

 アニメーションが何故動いて見えるかは既にご存知だと思うので割愛し、簡単な動かし方の
基礎を説明して行くことにしよう。有名な「波送り」「前ツメ・後ツメ」「運動曲線」などである。


 ※文中にある「中2枚」と言うのはキーになる絵(原画)の間に絵が2枚描かれているという
意味である(動画)。「中割(なかわり)」と言う場合が多い。「中3枚」なら間の動画が3枚
あると言うことであり、割の指定が細かければ当然全体の枚数も増え、動きも滑らかになる。

枠部分が原画、その間が動画
(赤枠で囲まれているのが原画部分、その間が動画部分に相当)

第四章:動きの礎  二ノ巻:波送り

 先ずは動きの基礎中の基礎”波送り”について解説したい。これが分からないと後の説明で
非常に困るのでしっかりモノにして貰いたい。とは言え、理屈は非常に簡単。

波送りの概要

 波が左から右に向かって移動して行くサンプルである。ある位置の動きを表すために棒状の
物体で波の伝わりを表現してある。棒はその場で上下動しているだけなのに全体では波の
伝わりが感じられる。波は振幅なので波の伝わりを上手く表現するにはタイミング良くドットを
動かしてやれば良いことになる。スタジアムなどで見られるウェーブを思い出すと感覚的に
分かりやすいかも知れない。あれも観客が横に移動してる訳ではなくその場で上下動をする
だけだが、皆がタイミングを合わせることにより波が伝わって行く様を表現している。要は波の
伝わりを表現するためには秩序とタイミングが肝心なのである。これが波送りの原理だ。

 さて、波送りの原理が分かったところで次のサンプルを見て頂きたい。

波送りの応用

 波送りの応用でこんな柔らかい感じを出すことが出来る。左右に倒れる力が根元から先端へ
向かって抜けて行くように伝わって行く訳だ。当然、堅い物体では物自体が曲がらないので
このようにはならないが、曲がるかどうかの違いだけで原理は同じである。
第四章:動きの礎  三ノ巻:前ツメ・後ツメ

 次は”前ツメ・後ツメ”の話である。”ツメ”とは動きを作る場合の動画のツメ方のことを言う
言葉で主にアニメーションの現場で使われるが、ドット絵でも説明するのに便利なのでここに
記しておきたいと思う。先ほど使った左右に倒れる動きのツメ方をそれぞれ変えてみよう。

前ツメの例 後ツメの例
前ツメの例 後ツメの例

 使った枚数が違うので倒れるタイミングを合わせることが出来なかったが、極端な例では
こんな感じである。前ツメは立ち上がりに多くの枚数が使われていて、後ツメは振り下ろしに
多く枚数が使われているのが分かるだろうか。下の分解図で見ると良く分かると思う。
(前ツメの分解図が違うパターンなってたのに翌日気付いたので修正。申し訳無い…)

■前ツメの分解図
前ツメの分解図

■後ツメの分解図
後ツメの分解図


 図を見れば一目瞭然。要するにパターンを動きの始まりに割くか終わりに割くかの違いである。
基本的には前ツメを使うのだが、後ツメを使って決めポーズの余韻を表現する場合もあるので
最後は演出意図や使える枚数と相談という形に落ち付くのが一般的である。どちらにしても
”送り”が上手く行ってないと動きにガタツキが出るので細心の注意を払いたい。

 ※重い物を動かす時は前ツメを使わないと肝心の重さが表現できないので、決めポーズが
格好良いからと言って後ツメで済ますのは避けるべきだろう。当然慣性も付いて回るので
その辺も頭に入れておきたい。まあ、大抵は容量の問題でギリギリのパターンでやるから
あまりツメの部分にまでは手が回らないのだが…。
第四章:動きの礎  四ノ巻:運動曲線

 冬コミ新刊の準備やら弐百萬祭やら春画祭りやらにかまけていたら、こんな時期まで
更新が滞ってしまった。結局、運動曲線に関するアニメーションの技法書を発見することが
出来なかったので、仕事上での経験から近いと思われる部分を記すことにしたいと思う。
アニメ業界で使われている言葉とは若干ニュアンスが異なる部分も出てくると思うので、
鵜呑みにせず、「ああ、こういうことなのか」という程度に考えていただければ幸いである。

 前置きはこの辺にしておき、本題に入ることにしよう。下図のサンプルを見て頂きたい。

簡単な運動の例

 単純な玉の運動サンプルである。上方に投げられた玉は重力の影響で次第に速度を
失い、放物線を描きながら落下を始めると言う理科の授業で良く目にする物だ。この運動の
軌跡を「運動曲線」と言う。”運動の持っている動きの軌跡”と言った方が良いかも知れない。
では次のサンプルはどう見えるだろうか。
簡単な運動の例 その2

 重力下での運動としては適当ではないように感じる。まるで見えない何かに反射している
かのようだ。このような動きになるためにはそこに何かの「理由」が必要になる訳である。
その理由が存在しない場合、このようにしてしまうことは運動自体が持っている動きを阻害
していることになり「この動きは嘘」と見た人は感じてしまう。ちょっと前のCGムービーの
人体はこう言う堅い動きを良くしていたが、それは関節で繋がった人体の運動曲線に無理が
あるからで、その無理が各人が今までの生活で培ってきた経験値と齟齬を起こすためだ。

 例えば「グランツーリスモ」での挙動がやけにリアルに感じるのは、表現されている挙動が
経験値に合致して「ああ、確かにこう言う風になるよなぁ」と脳が判断しているためであり、
「マトリクス」や「ロミオ・マスト・ダイ」のワイヤーアクションがCG処理をしたにも関わらず妙に
あざとく見えるのも「人体はこんな風にジャンプしたりしない」と今までの経験から判断されて
しまうためだ。特に実写物ではこの経験値の齟齬は顕著に表れるので、リアル感を売りに
している場合、異常に気を使わねばならないので大変である。それを正面から真面目に
取り組んでる最近の映画業界は凄いと思う(余談)。

 アニメ作品等の場合はあざとい位で丁度良いようなので、そこに経験値のエッセンスを
演出として加えると「リアルな動きだ」と言う評価に繋がるようだ。ただ、この手の味付けは
ある程度リアル感を表現している作品にのみ通用することであって、例えば「ドラえもん」や
「アンパンマン」でやっても意味は無いのは言うまでもない。ドット絵の場合、基本的に動きは
プログラムで対応することがほとんどなので、プログラマ任せになることが多いのだが、
アニメパターンを作る場合には必要な知識なので、考え方だけでも身に付けておく方が良い。
漠然と思いながら見てるだけでも動きに興味が出てくる物だ。最近のビデオにはコマ送り位
標準で付いてるだろうから、気に入った動きがあったら一先ずコマ送りしてみると良いと思う。



 余談も多かったが動きの簡単な解説としてはこんなところだろうか。偉そうなことを書いて
あるが筆者もいきなり「じゃあ、この動きを紙に描いて見ろ」と言われたら描けない。
描けないが、それが動きの基礎から外れているかどうかは分かるので描きながら煮詰めて行く
作業が可能になってくる。結局は作った動きを自分で判断できる経験値を高めることが重要な
訳で、その辺は動きを「意識して見る」ことを習慣付けるのが近道だと思う。アニメでの動きの
付け方で参考になる作品としては「白雪姫」と「トムとジェリー(1940年代の物が望ましい)」の
2つをお奨めしたい。個人的にはトムとジェリーの「お化け騒動」ラスト、パウダーの尋常でない
舞い方が好きだ。ほとんどパーティクルであり、職人芸の凄まじさを堪能するには絶好の
素材と言える。役者の演技を取りこんで紙に書き写している「白雪姫」の動きも得る部分が
多いのでレンタルされていたらどちらも見ることをお奨めする次第である。当然、気になる
動きはコマ送りで1コマずつチェックである。

 これでどうにか基礎の基礎編は終わっただろうか。次からは基礎編に突入できるかも。
できれば間を空けずに更新して行きたいところだ。

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